すっかり春めいてしまって、2月の降雪が嘘のような天候になってきました。学生街は不動産会社の営業車が走り回り、新入生とその家族と思しき連れが真新しい家具を抱えてアパートへと入っていきます。それを眺める僕もまた、彼らほどの新鮮味はないものの、大学院への入学という節目を迎えることとなりました。学内の健康診断をさぼってしまったせいで手続きがやや面倒になりましたが、バイトの休憩時間に書類を提出してなんとか入学が確定した次第であります。もう2年ほど、もう幾分かいただき尽くした親の脛を端っこからはじはじと食み、恥を偲んで生きてこうという運びとなりました。
さて、春といえば引っ越しと冬を越したお野菜の季節です。春キャベツに新タマネギといった野菜は越冬のために蓄えた糖分に由来するほのかな甘味が特徴です。今日の夕食はみずみずしい新タマネギを使った亡命ロシア料理「鶏へ帰れ!」ですよ♡
ピョートル・ワイリ et.al.の料理エッセイ「亡命ロシア料理」(1996)に収録のレシピを参考にします。昨年Twitterで話題になったアレです。
材料/1人前
・鶏もも肉 1枚
・新タマネギ 1個
あとはバターひとかけ、月桂樹一葉、粗挽き胡椒、塩少々
まず鶏肉とタマネギをひと口大に切ります。
本来はまるっと入れちゃうそうですが、時短の為に切り分けました。
食材を細かいブロックに分割すると体積あたりの表面積が大きくなるため火が通りやすくなるとともに、個々のサイズの(統計的な意味での)分散が小さくなり、均一化して調理結果が安定します。このダウンサイジングを極限まで適用した調理方法がミンチ、ミキサーですね。
肉を一枚ごと加熱するステーキでは肉の表面・内部の特性の違いを加味して加熱する高い調理スキルを要求しますが、液状のスープは火を通すだけで誰でも(機械でも)調理できるので工業化に適した前処理と言えますね。ディストピア小説などで登場する液状・それを固めたようなブロック状の食料は工業的生産に合理的な形状をしていて、消費者から生産者の都合へ変容してしまった食文化として、リアリティある表現だと思います。
さて、食材を切ったら鍋底にバターを入れて溶かし、煮込むだけです。
一時間ほど弱火でじっくり煮込みます。その間にこの記事の冒頭を書きました。
......しかし匂いがすごいです。シチューのようなコンソメに鶏ガラの合わさった食欲をそそる匂いがキッチンに立ち込めます。嗅覚と記憶は密接に連携するといいますが、これを嗅ぎながら受験勉強すれば大変捗るのではないでしょうか。あるいは、顔が思い出せないもはやその質量すら存在に耐えがたい少女との"あの夏の思い出"も鶏へ帰れ!と共に在ったのならば、報酬は入社後平行線で愛せどなにもない東京で、この匂いと共に飛んじゃって大変なことになれるかもしれません......
......完成です。
写真だとわかりずらいのですが、黄金色のスープに玉ねぎがとけ、鶏肉だけ形が残ってる感じです。
実食してみた感想は「完全にシチュウ」です。柔らかくなった鶏肉と、溶けた玉ねぎにバターと鶏脂がたっぷり入ったスープ、これシチュウです。シチュウ作ってました。シンプルな味つけながら鶏のうまみがしっかり利いてて上品な味わい。とりあえず玉ねぎをバターで煮込めばシチュウになるという知見を得られました。
むろん、この料理は「完全にシチュウ」でしたが「完全なシチュウ」ではないでしょう。シチュウとして成立するために必要最低限の食材で構成した、最大公約数的な、プリミティブな、シチュウの祖先といった感じがします。ここに牛乳を加えてジャガイモやニンジンを入れればお馴染みの所謂シチュウになり、ワインで牛肉を煮込めばビーフシチューに、みりんと醤油で肉じゃがになりそうです。そう、イーブイですね。
ふきそくな いでんしを もつ。
いしからでる ほうしゃせん によって
からだが とつぜんへんいを おこす。
あっイーブイだ♡かわいいね♡
エメラルドのバトルタワーでブラッキーに影分身積まれまくってボーマンダの技はずれ散らかしてガチ泣きしたトラウマがある。見た目はブイズで一番好き(チューニ=オ=タク)。
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