虚無らがえり

アニメ批評/エッセイ

レポート『家族構成に起因する社会問題への一考察』

  

藤本タツキチェンソーマン』より

僕は大学に入学してから3年たつが、いまだに教養の単位を取り切れておらず、締め切りギリギリまでレポートを寝かしておいた*1。とはいえこちらも卒業がかかっている身、期末レポートと引き換えに単位をいただかなければならない。

大学の先輩に校正してもらいながら書き上げたのだが、そこそこのレポートが仕上がったと思うのでここに転載する。

評定ものせる予定なので学部1年生の参考になれば幸いだ。

 

課題:家族形態が多様化している日本の現状を踏まえて社会保障のあり方を述べよ!

指定したキーワード使ってね♥みたいな内容。

後半パッチワーク(継ぎ接ぎ)気味になっちゃってるのは指定字数以内にキーワードを使う制約による。

 

『家族構成に関する社会問題への一考察』

 

 現代の家族のあり方は多様化しており、戦前・戦後の祖父母・父母・子世代が一軒家に同居する従来の家族構成は減少傾向にあり、そのぶん都市部のアパートメント、マンションで父母・子世代が同居する核家族の増加、子供がいるが配偶者のいないシングルマザー、ファザー、結婚・性愛関係をもたない共同生活様式(シェアハウス)、そもそも家族を持たない(非婚人口)も増えており”家族”のありかたは多様化している。家族構成の変化は第三次産業をはじめとする都市的な労働が一般的になり、小規模・家族農業的な働き方の変化、少子高齢化による人口構成の変化によって従来の三世代が集約して生活する家族構成の維持が難しくなっている。

f:id:Haily:20200717235424p:plain

藤本タツキチェンソーマン』より

 家族構成の変化による社会問題として住宅団地(集合住宅)の孤独死がある。

住宅団地とは住宅計画によって計画的につくられた集約型の合同住宅であり、高度経済成長期には都市部で働く労働者とその家族の住居として多くの住宅団地が建設された。住宅団地はその住民の生活様式の特徴や自治会などの集団活動の特徴が社会的に注目された経緯があり、「団地」という言葉が一般化された。社会的な要求によって急増された住宅団地は、公的な運営がされているものも多いが、時代的に建設上に欠陥がある団地も少なくなく、現代になって改築されるか取り壊されている。築年数も経っており、団地の住居としての質は、当時は十分だったかもしれないが現在は劣悪である。

f:id:Haily:20200717234330p:plain

藤本タツキチェンソーマン』より

 住宅団地の孤独死は、団地に単身で住む高齢者がほとんどである。こういった高齢者はかつて労働者世代として家族と共に住宅団地に移り住んだものの、成長した子世代が団地を出てきりで帰ってこず、介護もなく単身で生活している。社会保障としては年金による所得が保障されているものの、介護を受けられず社会的に孤立した状態にある。団地という住宅構造は集約的、共同的な生活空間であるにも関わらず、家族という社会からは孤立してしまっている。この背景には団地特有の住居の問題以外に、少子高齢化という大規模な社会問題が存在する。

 高齢化によって日本人の平均寿命は大幅に伸びたが、健康寿命も同じくらい伸びたわけではないため、介護を必要とする高齢者の人口が増加した。要介護者を受け入れる、老人ホームのような福祉施設は全国各地に設立され、市営・私営ともに運営されているがその数は十分とはいえない。介護士の不足もあり、全国的に介護施設は需要にこたえきれておらず、そこからあぶれた者は家族による介護を受けるか、自立した生活を営むよりほかない。一軒家にすむ高齢者の場合、持ち家がひとつの財産であり子世代に継承するべき親世代の資産であるという経済的なメリット、一軒家には祖父母・父母・子世代の複数の世代が同居できるだけのスペースが確保されているという空間的な余裕がある。それに対し、住宅団地では住居自体は居住者の所有物ではなく、家賃を払うことで生活しているために経済的なメリットがなく、団地の狭さという空間的な制約もあり住居としての質の低さから、介護のために団地に住む親の元に、労働者世代の子が帰りがたい状態にある。そういった住宅団地で暮らす親が子の住む一軒家に移住することによってこの問題は解決されるが、地価の高い都市部に働きに行った子世代が持ち家を持つことは難しく、マンションのような小規模密集型の住居を所有しているかアパートメントで生活するケースが多い。その場合は居住空間の問題が生じ、それならば住み慣れた地域で自立した生活を選択する高齢者も多いだろう。

 ここまでは団地と一軒家、都市部の生活をステレオタイプ化して議論したが、実際の取り組みについて常盤団地の例をあげる。常盤団地における孤独死対策では、①あんしん登録カードによる不測事態における身内への連絡先の確保、②民生委員と協力の見守り活動、③いきいきサロンの運営による地域コミュニティの保持が対策の中心となっており、家族に依存した従来の介護から社会関係資本の維持による地域全体の相互補助によって高齢者の孤独死問題を対策している。

f:id:Haily:20200717234504p:plain

藤本タツキチェンソーマン』より

 家族構成、居住の問題としては8050問題がある。8050問題とは長期化した引きこもりによって50歳を迎えた子と80歳が同居することで生じる介護、収入上の問題であり、前述の住宅団地の孤独死が親世代と子世代の別離の問題だった点で対称的である。この問題も家族の問題ではあるが、根本的な原因としてはひきこもりの増加があり、その問題に対して家族間でしか対応できず潜在化してしまうことが懸念される。こういった問題に対しても常盤団地の取り組みのように、引きこもり支援を行うNPO法人団体の働きかけが行われている。

 それらとは異なる家族構成の問題としては待機児童の問題がある。これは主に核家族の児童で保育園や幼稚園に入ることができず、親戚の家にもあずけられないため両親が勤務中に自宅で待機する児童及びそれに起因する問題である。子どもが孤立している点で前述の2つの問題と対称的であり、子どもを預ける保育園、幼稚園がない点で、高齢者の受け入れ先の不足などとの類似性がある。

藤本タツキチェンソーマン』より

 この問題についても常盤団地のような外部の地域コミュニティやNPO法人のはたらきかけや、託児所の確保など行政による対策が必要である。孤独死問題と関連して、単身高齢者と児童の交流など世代間を超えた社会関係の構築が問題の総合的な対策になるのではないかと思う。

 これらの家族構成による問題は、家族の問題でありながら家族内での解決では無理があり、より大きな社会的単位、学校や地域社会による働きかけを必要としている。そして従来の家族よりも大きな社会的共同体としての営みが解決の手掛かりになるのではないだろうか。

藤本タツキチェンソーマン』より

 評定はA(3/4)でした。(平均はB)

反省点として、社会問題に関しての記述にウェイトをかけていて社会保障に関する考察が少なかった。現実で行われているNPO法人による活動は社会保障レベルの活動ではなく、それを社会保障として運営できるように記述するべきだったと思う。

ぶっちゃけテーマをちゃんと把握していなかったので自分が調べたこと(団地の孤独死)ばかりに注目しちゃったかな......。

論理的な構造は悪くないと思う。孤独死、8050問題、待機児童の3つの問題が「親子の別離⇔集約」という点で対称的で祖父母、父母、子の3世代における問題である点で重層的な対比構造になっている。

「家族内の問題であるが、家族では解決できず、より大きい社会による解決を必要としている」という結論はよかったと思うので、そこから所得以外の社会保障の役割まで接続できればもっとよいレポートになったと思う。

 

おわり

*1:課題の提出が必要なことを認識していながら参考文献を読まない、論点をまとめない、ワードを立ち上げてメモリに負荷をかけつつネットサーフィンするなどを指す。