虚無らがえり

アニメ批評/エッセイ

【NTR研究】データから考える「NTR」ブーム

この記事は一部成人向けのコンテンツを引用していますが、過激なものにはモザイクを施しています。一部成人向けサイトのリンクがあります。

 

緒言

NTR(寝取られ)は近年成長している(主に成人向け作品における)ジャンルのひとつである。

僕はNTRに興味を持っており、過去の記事で「NTR幻肢痛」について論考した。

 

comkaeri.hatenablog.com

ほかに【NTRは脳を破壊するのか】や、【NTRはなぜ気持ちよいのか】、【二次元キャラクターの存在論NTR性】などについても考えていきたいのだが、ここでいちど【「NTR」ブーム】について定量的なソースをもとに分析・整理しておきたく、この記事を書いている。

DLsiteにあふれる「寝取られ」作品

同人作品の販売、頒布ができるオンラインプラットフォーム,DLsite.comには男性向け「寝取られ」ジャンルの作品が14,088件(2020年7/8現在)販売されている。*1

他のジャンルでは「妹」が11,502件、「メガネ」が11,198件、「男の娘」が6,379件であり、現状では「NTR」はかなりメジャー(主要)なジャンルのひとつだろう。

 

 

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DLsiteで販売されている「寝取られ」作品群。リンク:https://www.dlsite.com/maniax/fsr/=/language/jp/sex_category%5B0%5D/male/keyword/%E5%AF%9D%E5%8F%96%E3%82%89%E3%82%8C/per_page/30/without_order/1/page/1/order/rate_d

美少女ゲーム業界が落ち込んでいる中、同人ゲームやCG集は売れており、サークル・ハムスターの煮込みのCG集『ラブコメ主人公が友達にヒロイン全員寝取られるお話♡♡』(¥990)はリリースから2か月ほどで販売数15,547を記録し、同人サークルのたった一つの作品をめぐって1500万円もの金が動いている。

 

ちなみにDLsiteで販売されている「寝取られ」ジャンルのゲーム作品は1348タイトルであり、ファミリーコンピュータ®のゲームソフトの全タイトル(1,053本)より多い。

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ファミコンのソフトよりNTRエロゲの方が多い世界

 成人向け作品のジャンル*2には流行り廃りがあり*3、かつての「ロリータ」、「(義)妹」などのように「寝取られ」も広く浸透しているように思う。

NTR」検索数の推移

 WEB検索エンジンユーザーの興味関心を過去にさかのぼって調査してみる。

ここではgoogle検索される=流行とみなしてブームの推移を見ていく。

この方法だと検索ワードが好意的な意味で広まったのか、その逆かは判断できないが、ブームというものは対象が良かれ悪かれ人に広まることだと思うし、"炎上"もブームのひとつだろうからそれらを区別する意義を感じないため区別しないで考える。

Googleトレンド*4を使って2004年からの「NTR」の人気度を見てみよう。

特定の時期に爆発的に増えた様子はなく、多少増減しながら着々と検索数が伸びていったように見える。*5

 

<単回帰分析>*6

月ごとの検索数の相対値を目的関数、2004年からの時間経過(月)を説明変数とし単回帰分析をおこなったところ、R2値(決定係数)≒0.95であった。

回帰統計
重決定 R2 0.950674
補正 R2 0.950424
観測数 199


決定係数はモデルのデータへの当てはまりのよさを示す。決定係数の値は0≦R≦1であり、R=0.95というのはかなりデータを説明できるモデルと言え、モデルをもとにデータを予測するときの信頼性が高いことがわかる。

  また、p値は切片:1.60E-13,傾き:1.1E-130であった。

  係数 P-値
切片 -6.83417 1.60E-13
X 値 1 0.460452 1.1E-130

p値は帰無仮説「その説明変数が目的変数に与える影響が0」のとき、たまたま切片と傾きが算出した値になる確率であり、これが極めて小さい値をとっていることから説明変数は目的変数にかなり影響しているといえる。

 

これらから「NTR」の人気度が二次関数・指数関数的な急増化やパルス的な増幅パターンではなく、線形的な増加をしていることがわかる。


「妹」検索数の推移

比較対象として「妹」を見てみよう。同人界隈以外でも日常的に使われるワードなので人気度は安定しそうなものだが......

 

 

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埋め込みがうまくいってないっぽいので画像を載せておきます

特徴的なグラフになっている。経過時間ごとに人気度が伸びるというよりは、特定の時期にぐんと伸びていることがわかる。

最も大きいピーク(人気度85~100)を記録した2010/10~2011/1にはアニメ『俺の妹がこんなに可愛いわけがない。』の第一期が同年10月から放送され、この作品が「妹」ブームを引き起こしたと予測される。2つ目のピーク(人気度55~75)である2013/4~2013/6は同アニメの二期の放送時期と重なり、この作品の「妹」ジャンルへの影響力の大きさがわかるだろう。

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アニメ『俺の妹がこんなに可愛いわけがない。AIC Build制作

<注釈>

さらっと書いてあるが、「妹」の検索数の増加と『俺妹』の放送の関係からは

【1.『俺妹』の放送が「妹」ブームを引き起こした】あるいは、

【2.「妹」ブームによって『俺妹』が放送に至った】

が推測され、どちらが妥当かについての検証、原因と結果の推考が必要である。

・ふつう、テレビアニメの放送は年単位で計画されており、2010/10の急速な「妹」ブームによってアニメ化が"決定された"とは判断しがたい。

・『俺妹』1期の放送終了が2010/12なのに対し、「妹」の人気度のピークはその次月2011/1となっており、放送を追うような変化が起きていることから、『俺妹』放送が「妹」人気に先行していると考えられる。

・『俺妹』二期の放送によってもピークが生じていることから同作品が「妹」ブームに影響を与えていることが裏付けられる。(「妹」の関連キーワード一位は「俺の妹が(略)」である)

以上の理由から1の『俺妹』の放送が「妹」ブームの原因と考えることは妥当だろう。

 

このようにあるジャンルが流行するとき、そのブームの火付け役とでもいうべきインパクトのあるパイオニア的作品によって爆発的なブームがおこり、そのフォロワー(後追い)が断続的に発生してジャンルが広まっていくのではないだろうか。

「妹」と比較して考える「NTR」の特徴

翻って、「NTR」においては『俺妹』のようなインパクトのある作品は登場しなかった。けれども特定の作品による劇的なブーストに頼らず「NTR」は地道に拡大を続けていきその人気は現在ピークに達している(達しつづけている)。

 

これは「NTR」が美少女ゲーム、恋愛アドベンチャーにおいてサブルート的な立ち位置で存在していたからではないだろうか。

2000年代の同人文化の土壌となる恋愛シミュレーションゲームにおいては、基本的にすべてのヒロインが主人公のことを好きになる。

そういった了解の上で成り立つゲームにおいて「NTR」は一種のタブーであり、それが主軸に置かれることはなかったが、『下級生2』における柴門たまきのようにミスった選択肢をとると発生するBADエンド、サブルートとしては採用され、それが一部プレイヤーに刺さり細々と愛好されたのではないか。

 これについては筆者が恋愛シミュレーションゲーム史に疎いこともありはっきりとした確証はもてないのであくまでそういう説としてあげるにとどめる。

 

別の考え方として「NTR」の"二次創作性"に着目してみる。

NTRは前提として寝取られるヒロインが主人公と親密な関係に無くてはならない。しかし、多くのNTRの一次創作ではヒロインと主人公の関係よりもヒロインと寝取り男との関係に多くの分量を費やしているように思える。これはNTRを主題にした作品としては「ヒロインが寝取られる過程」が求められていて、それにこたえるためにヒロインと主人公の描写が手薄になるのだろうが、それゆえにNTRの前フリが薄くなってしまい、一種のジレンマに陥ってしまう。

では二次創作におけるNTRはどうだろうか。

一次創作におけるNTRでは作品内で前フリを用意する必要があったが、二次創作においては作中のカップリングと相反するNTRでは、一次創作そのものが前フリの補完となる。

十分な分量があるほんものの前フリが用意されていることはNTRの質を高めてくれる。同人的な二次創作が一次創作の分量を超えることはないだろうから前に述べたジレンマに陥ることはない。

NTR」ジャンルはその構造上、二次創作との親和性が高いのだ。

からかい上手の高木さん』のようなNTRとは程遠い相思相愛ものの作品ほど、重厚な前フリとして機能し、それをもとに純度の高いNTRが生成される。

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からかい上手の高木さん』山本崇一郎


よりラディカル(過激的,急進的)にいうと

NTR」でない(純愛成分の強い)作品はすべて"良質な"二次創作NTRのための前フリである。

だから「NTR」は「NTR」としてインパクトのある作品を必要とせず、前フリとしての純愛作品があれば(二次創作としては)成立するのだ。(寄生虫かな?)

NTRが代表的なヒット作なしににここまで拡大したのはこの二次創作性によるんじゃないか。

「これは純愛ものが好きな人ほど(NTRが嫌いなほど)NTRの素質がある」という言説にも接続できるだろう。

 

まとめ

近年流行している「NTR」は「妹」のような特定の作品による瞬発的なブームではなく、少なくとも2004年から、代表的な作品に依存せず線形的に広まっている。

NTR」の広まり方のデータからその性質を推考したところ、「NTR」の二次創作性というアイデアを得た。

このアイデアをブラッシュアップさせ、検証しのちの「NTR」論考に生かしていきたいと思う。

 

 

 

 

*1:ソース:DLsiteR18 詳細検索>ジャンルhttps://www.dlsite.com/maniax/fs 

*2:ここでは商業作品と比べて、創作のサイクルがはやく流行に鋭敏な同人作品について考えるが、ここでいう"ジャンル"は作品の属性・類型・シチュエーションをさし、同人誌即売会などで「どの版権作品を二次創作元とするか」をさす意味での「ジャンル」とは異なる。

*3:正確に言うならば、「流行り廃りのあるジャンル」と「安定した人気をもつジャンル」があり、「かつて流行ったジャンル」が一般化され「安定した人気を持つジャンル」に推移することもある。

*4:Google検索の入力数をもとに検索ワードの相対的な人気度を調べることができるサービス

*5:この傾向は「寝取られ」についても同じ。https://trends.google.co.jp/trends/explore?date=all&geo=JP&q=%E5%AF%9D%E5%8F%96%E3%82%89%E3%82%8C,NTR

*6:なんかかっこつけてるが、具体的な操作としてはgoogleトレンドからCSVファイルをダウンロードしてExcelの分析ツールを使うだけである。君も以下の資料を見ながらやってみよう:http://www2.kobe-u.ac.jp/~hamori/Jhamori/EXCEL1(rev).pdf