アニメと振り返る2023年
刹那的に生きるという悪癖は、成人しても直らなかった。それどころか、6年間にも及ぶ「自由な」暮らしを経て、この性癖はさらに悪化した気さえする。夏休みの最終日に全日分の日記を書くような愚かしさから卒業できずにいる……とはいえ、だ。このまま回顧することなく、Spotifyのハイライトだけが僕の2023年を総括したまま新年を迎えるならば、生きた心地がしない。この365日を通過したという紛れもない事実を、生の実感を、わが手に把持しなくてはならない。(べつにドラマやソシャゲのイベントでも、なんでもいいのだが)テレビアニメを端緒として、あの時の記憶を探りたい。
1~3月(冬アニメ)
このクールは『おにまい』も放送していたが、最後まで観てなかった気がする。スケジュールアプリを確認したら、前年から早期選考をしていて、中旬に某半導体メーカーの最終面接を受けたようだ。一次面接は手ごたえがあったので余裕をかまして挑んだところ、志望動機が曖昧過ぎて面接の後半は反省会みたいになってしまった。
面接官「いや君がなにできるかは分かったからサァ、もっと"熱意"を伝えなきゃだめだよ笑(真顔)」みたいなことを言われ、その場でお祈り。のちのち調べたり面接を受けていくうちに、自己分析+企業研究の合わせ技で"能力"と"熱意"をアピールするのが就活の定石だと気づくことになる。当時の僕は就活を舐め切っていたので早期選考の段階で面接官から直接指摘されたことは、振り返ってみればいい経験になったと思う。当時はふつうに凹んだが。
とまぁこんな感じで「お仕事ください!なんでもしますから!*1」という精神状態で過ごし、リクナビのタブを開く頻度と反比例するようにDアニメを開く頻度は減っていき、もとから細かったアニメ筋はさらに萎んでいった。そんな就職活動という、自分の理想像が社会から見て好ましく見える像へとすり替わっていく最中、『大雪海のカイナ』だけはかかさず観ていたようだ。
雪だらけの凍てついた作中世界は、当時の季節感とマッチして「リアタイ」感があったし、ポストアポカリプス的な衰退した世界観がむしろ安らぎを与えてくれた。そういえばその年の金沢は異様な寒波で、上階の水道管が破裂して僕の部屋ではキッチンが水浸しになりました。
強制ミニマリストの刑 pic.twitter.com/6It77Tn1kj— 葉入くらむ (@Kuram_Haily) 2023年1月26日
午前5時に異音で目が覚め、台所に向かうと換気扇からシャワーのように水が流れており、午前からシフトに入っていたバイト先に欠勤の旨を伝え、管理会社に電話。死んだ魚の目をしながら2時間くらい床に溜まった水をセコセコ排水していると、死んだ魚の目をした不動産会社の人がやってきて原因の水道を止めてくた。内心もっと早く来てよと苛立っていたが、市内の物件で同様のトラブルが相次いでいると死んだ魚の目を歪ませていたので、何も言えず隣の物件に一旦引っ越し。このような自らの受難を『大雪海のカイナ』と重ねて観ていたのかも。
4~6月(春アニメ)
4月からも就活を続けていたが、件の面接をふまえて企業研究に力を入れた(といっても会社説明会を真面目に聞き、IR資料読み、OBとの座談会に参加した程度)。第一志望の面接では、御社独自の人事制度に魅力を感じてェ……みたいなことを話したら「ウチのことちゃんと調べてくれてうれしいです(真顔)」と好感触。失敗から学べたうれしさを噛み締めつつ、4月末に内定をもらって就活編は完結。
内定の連絡、遅すぎて諦めてたので復活演出みたいで気持ちよかった— 葉入くらむ (@Kuram_Haily) 2023年4月28日
で、アニメの方は『江戸前エルフ』『推しの子』『僕ヤバ』『久保さん』『君は放課後インソムニア』『U149』『スキップとローファー』など、見返すとかなり豊作だった。
『推しの子』の1話が衝撃的で、放送直後に居酒屋で会った知らない人と「目のハイライトの演出がサァ!」「アニメーションにおける静止画が"死"の表現として優れていてェ」と語り合ったことを覚えている。ただ、あえてピックアップするとしたら『君イソ』ーーというより白丸先輩(白丸結)は外せない。
バイクに乗ってる萌えキャラって萌えですよね(トートロジー)。このフェティシズムは中学生のとき読んだ『キノの旅』で萌芽し、『ゆるキャン△』の志摩リンを経て、『スーパーカブ』をもって自覚に至った。少女×バイクの取り合わせは、斎藤環がいうところの戦闘美少女=ファリック・ガールの一形態にすぎないかもしれない。二輪車という不安定ながら単独走行に適したマシンは、美少女の孤高さ、完全さを強化する装置にほかならない。しかし僕は自らを必要としない人格を偏愛する倒錯したフェティシズムの果てに、関係とは異なる方法で、自らの内に展開する=「なる」ことによって彼女に到達するという一種の悟りに至った。200kmぐらいカブで移動してるときに。
横道にそれてしまった。白丸パイセン、マブいっす(不良少年)。ずっと一人でカブに乗って写真撮って、社交的なタイプじゃないんだろうけど、面倒見よくてさ、シャイなところも心にぐっとくる。
そういえば当時睡眠リズムが終わっていて僕もインソムニアだったので、この時期から学生相談室(カウンセリング)に通いはじめた気がする。今でも月1くらいの頻度で通っていて、精神の健康に寄与している。心療内科の紹介状も書いてくれるので、睡眠や精神の悩みがある大学生におすすめです。
7~9月(夏アニメ)
ほかには『五等分の花嫁∞』『呪術廻戦 2期』『好きな子がめがねを忘れた』『うちの会社の小さい先輩の話』など。ツイッターのTLでは『ちいせん』が盛り上がってたっぽいが、正直夏アニメはあまり観てなかった。『好きめが』はプロモーション映像の作画がリッチで魅かれてみてみたけど、ゆるいラブコメの割に作画カロリーが高すぎてしんどくなってしまった(腑抜け)。『怪人開発部の黒井津さん』『4人はそれぞれウソをつく』みたいな、いい感じに肩の力が抜けてる深夜アニメっぽいやつが見たいんだよ!と絶叫。こうして人は年を経るにつれて「中華そば」と「ラーメン」の違いにこだわるようになっていく。
でも『幻日のヨハネ』は毎週正座して観てたワケは、ひとえに主人公=ヨハネの境遇に自身を重ねていたからかもしれない。ヨハネは架空の中世ヨーロッパ風の田舎=「ヌマヅ」からアイドルになるべく上京したが結果は実らず、あえなく地元に帰ることになる。*2そこで雑用みたいな仕事をこなしつつ自分の将来を見つめていく……というあらすじなのだが、2話の展開がとても刺さった。
ヨハネには地元の同級生(?)が何人かいるのだが、みんなお菓子屋を売ったり実家の旅館を手伝ったり、公務員になって働いており、その様子を見学して回るという見る人が見れば精神的リョナじみた回だった。「さーて萌萌過剰摂取、キメますか(笑)」と再生ボタンをクリックした僕のニチャついた顔面は、みるみるうちに真顔になった。
盆に帰省したとき、高校時代の友人たちとバーベキューをしたのだが、大学進学した同級生も学校の先生や医療従事者、公務員として立派に働いていた。僕はというと、もう味がしなくなった親のスネを未だに齧り続ける学生であり、ぐぅーっと胸が苦しくなった。その夜は飲み過ぎて、帰り道の公園で四肢を投げ出して天を仰ぎ、ギリギリたどり着いた実家のベランダ家庭菜園にアホみたいに嘔吐した――23の夏。
10~12月(秋アニメ)
そして今季、『葬送のフリーレン』『薬屋のひとりごと』『SPY FAMILY 2期』『アンデッドアンラック』『星屑テレパス』など、なかなか粒揃いだ。しかし、最終回がいちばん気になるアニメは――
『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』はいわゆる「タイムリープもの」作品で、開封すると発売当時のアキバにリープする不思議なエロゲを手に入れた主人公=コノハ*3がエロゲの歴史をなぞり、そして追い越していくSFアニメである。作品を端緒に過去を思い出すことが、ある種の時間遡行とみなせるのならば、この記事もまた『16bit』とパラレルなのだ!16bitどころか30fpsデジタルアニメーションだけど。僕は煽情的な服装しか着れない呪いにかかったインナーカラーの美少女イラストレーターではないけれど。
ホームページも出来よくってェ……"あの頃"のにおいがムンムンでェ
序盤は作画の脱力感やコノハ=タムの雑に萌な感じがちょうどよくって、同期に放送中のフリーレンとのギャップも相まって、それこそ「こういうのでいいんだよ」ってスタンスで観ていた。だが後半にかけての大雑把なSF展開が深夜アニメすぎて、どんどん没入していき、今では「こういうのがいいんだよ!!」と絶叫している。残り1話なんですけど畳めるんですかね、これ。
で、人生の方はというと、同人誌を立ち上げたりしました。
(おかげさまで14本の記事が参加予約されました。ありがとうございます。)
直近の課題は卒業研究だけなんですけど、まだ実験は続いていて、グラボの性能が足りなくってェとクネクネしてたら新卒の初任給くらいのエグイ𝑴𝒀 𝑵𝑬𝑾 𝑮𝑬𝑨𝑹を支給されてしまい、この文章も実験の待ち時間に書いてます。どう畳むんですかね、これ。
首尾よくこなせれば2月下旬から時間ができそうなので同人活動も再開していきたい。春の文学フリマ東京に向けて『スーパーカブ』、『グリッドマンユニバース』論、クソデカコンビニ駐車場おねショタ神話SF(創作)を書くつもりです。
あ、来年の抱負は「早寝早起き朝ごはん」です(未就学児?)。
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